旧gaaamiiのブログ

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メディアの等式を読んだ感想

「人はなぜコンピューターを人間として扱うか 「メディアの等式」の心理学」という本を読みました。全体通して若干煽り気味の文体だったためか、分厚くても飽きずに読めました。

この本のタイトルであるメディアの等式というのは「メディア=現実」だということです。人間は、メディアと現実をしっかり区別できていない。それを証明するためのいくつもの心理実験について書かれています。

とっても面白かったので、このエントリでは最初の実験について紹介して、自分の感想をちょっとだけ残しておきます。本の内容についてはWikipediaのページにもよくまとめられているのでそちらのリンクも貼っておきます。

人間はコンピュータに対して礼儀正しく振る舞う

著者の2人が最初に行ったのは、人間はコンピュータに対して礼儀正しくふるまうのか?ということを調べる実験です。この本の主旨は「メディアと現実が等しい」ことを証明することなので、人間がコンピュータと接する時に人間と接するのと同じように振る舞うところを観察するのが目的です。

いち人間としては、人間は頭が良いからコンピューターが生きていないことくらいわかるはずだと思いたいところです。しかし、人間がコンピュータに対して実際にどう反応しているかというのを実験を通して見ていくと、コンピュータに対してきっちりと社会的な反応を示してしまうことがわかりました。

実験

実験には2台のコンピュータが使われました。被験者には1つのコンピュータを利用してもらった後に、その性能を評価してもらいます。そして評価する際に、利用したそのコンピュータ上で評価を入力した場合と、部屋の向かいに設置した別のコンピュータ上で入力した場合を比較するのです。

人間同士だと面と向かって嫌なことは言いづらいものですが、コンピュータに対してそういう気遣いが生まれるとは思えません。人間がコンピュータに気を遣わないのであれば、どちらで入力しても評価は変わらないはずです。

結果

しかし、結果はそうではありませんでした。利用したコンピュータに尋ねられた場合と、別のコンピュータに尋ねられた場合では答えに大きな偏りがあったのです。 利用したコンピュータ上で評価を入力したグループには、良い評価を与える傾向があり、別のコンピュータ上で入力したグループには悪い評価を含む多様な回答が見られました。この結果を受けて、著者はこう述べています。

社会科学からこれまで得られた発見や実験方法を、人間対メディアの関係にそのまま当てはめることは可能だ。心理学の学術論文の中から人が人に対してどう振る舞うかに関する記述を抜き出して、「人」という言葉を「コンピューター」に置き換えたら、同じ結果が得られるかもしれない。

感想

著者の2人は上のような実験をいくつも行い、いかに人間がメディアを現実としてみなしているかを明らかにしていきました。

ぶっちゃけ人間がコンピュータを人間っぽく扱うのはたいして違和感がないことかもしれません。テクノロジーが進化してコンピュータもずいぶん気が利くようになってるし、それに感情移入してる人がいたとしても、そんなおかしな話ではないでしょう。

しかし、この本は進化した技術に目を向けて「ほら、こんなに現実に近づいている!どうだ、テクノロジーはすごいだろ!」と唱えているわけではなく、むしろ人間の頭のいい加減さを明らかにしています。味気ないデザインのコンピュータといくつかのテキストをやりとりするだけで気を遣ったり、ビデオ会議の技術的な問題が人間に対する評価にそのままつながったり、ラベルを貼っただけのテレビを専門家扱いしたり...。著者が提示するのは、おいおい大丈夫かよ人間、と思ってしまうような人間のアホさを明らかにする実験結果ばかりでした。

人間がメディアを現実と見誤るのは技術が進化したからではなく、そもそも人間はいちいち「これは現実で、あれはフェイクだ」とかそんな判断はしないようなのです。著者は、最後の章の「何が正しいかよりも、何が正しく見えるかが問題だ」と題した節でこう述べています。

ぼくたちの実験から、実在するものによってできている現実よりも、知覚されるものの方が、ずっと影響力を持つことがわかる。

こういう視点を持つことは、プレゼンテーションやモノづくりなど、直接的にしろ間接的にしろ、人に何かを伝える上でとても役立ちそうです。「本質はこうだから」と押し付けがましいスタンスではなく、人間の知覚にダイレクトに訴えかけ、それが受け入れられた結果として伝えたいことが伝わるみたいな、そういう伝え方のほうが良さそうだなーというようなことを考えました。